農業が盛んなオレゴンでは、多くのブルワリーが地元産の素材を使っていますが、なかでも数マイル圏内で作られた食材のみを使う地元密着のブルワリーがあるんです。
それがこちらの「サスクワッチ・ブリューイング・カンパニー(Sasquatch Brewing Company)」。オレゴンからマローン恵がレポートします。
サスクワッチ・ブリューイング・カンパニーの醸造所があるのは、オレゴン州ポートランドのノースウエスト。河川水運が盛んなウィラメット川と森林公園のフォレストパークに挟まれた、工場や倉庫が立ち並ぶエリアです。
一見すると、こんな工場地帯に飲食店があるとは思えないのですが、じつはこのエリアにはいくつかビールやワインの醸造所があり、テイスティングルームやパブを併設しているところもあるんですよ。
長屋のようにウエアハウスが連なる一角に、サスクワッチ・ブリューイング・カンパニーの醸造所&タップルームがあります。外にはテーブル席やカウンター席があり、犬連れでビールを楽しむ人の姿も。
こちらのブルワリーが創業したのは、2011年。オレゴンではここ数年で爆発的にブルワリーが増えており、街中のフリーマガジンやフリーペーパー、ウエブサイトなどでも大々的にビール特集が組まれていますが、そういった場所でこのブルワリーの名前を見ることはほとんどないかもしれません。
というのも、「広告やキャンペーンを打たない」のがこのブルワリーのモットーだから。
近隣の農家と協力し、美味しいビールとフードを提供し、地域活動にも積極的に参加する、「川向こうの人たちは知らないかもしれないけど、地元の人には愛されるお店」それがこのブルワリーです。
ウエアハウスのコンクリートと木の質感に、元気な黄色が映える、とってもかわいらしい店内。天井の梁(はり)に沿ってつるされた白熱灯も、雰囲気たっぷりです。
店内には10人がけの高めのテーブルが4組と、4人がけの低めのテーブルが3組あるほか、カウンター席もあります。
奥の壁画は、ポートランド北部を描いたもの。川の左側、ビールが漏れる貯蔵タンクが描かれているあたりが、ちょうどこのブルワリーがある場所です。
この壁画、近づいて見てみると……。
アライグマがビールを樽で受け止めているんですよ。かわいいですよね~。
そして、絵の左端のほう、うっすらと人影らしきものがあるのが見えるでしょうか?
これはブルワリーの名前にもなっているサスクワッチ(ビッグフット)です。
サスクワッチはUMA(未確認動物)ですが、このブランド名には「隠れているもの、レアなもの、貴重で大切なもの」という意味が込められているそうです。
「隣人への思いやりや愛情は、もう既に失われてしまっているようにも感じてしまうけれど、そんなことはなくて、ただ小さな地域に隠れているだけ。このブルワリーのように」というオーナーの思いが、こうした地元密着のスタイルを作り上げているんですね。
店内はそのまま地続きでビールの醸造所になっています。これぞブルワリーパブの眺め!
地域密着をコンセプトにしているこちらのブルワリーでは、ビール作りやフードに地元産の食材を使うだけでなく、ビール醸造過程で出た穀物の廃棄物を地元の畜産農家に回して家畜のエサにする食品リサイクルも行っています。
さて、気になるビールの種類はこちら。
時期によってラインナップは変わりますが、私が訪れた2019年8月はビール12種、サイダー7種がありました。
パッションフルーツを使った米ビール「Passion of the Rice」や、海塩とピンクグアバを使ったゴーゼ「Pure Guava」など、名前を見るだけでも気になるものばかり。
かなり迷いましたが(笑)、今回はこの2杯に!
左:Valkyrie(ゴールデンラベンダーセゾン)ABV5.2%
右:Hairy Knuckle(ナイトロスタウト)ABV5% IBU32
Valkyrie(ワルキューレ)は珍しいノルウェーのカーウィク酵母を使ったセゾンビールで、オレゴンで今が旬の生ラベンダーを浸したもの。セゾンならではの爽やかな味わいですが、酵母の甘みもしっかり感じられます。どんな料理とも相性が良さそうなビールです。
Hairy Knuckle(ヘアリーナックル)はオーソドックスなアメリカンスタウトを圧縮窒素(ナイトロ)で仕上げた一杯。ダークチョコレートや深煎りコーヒーを思わせる香りとコクがたまりません。ナイトロの細かい気泡が作り出すまろやかな舌触りと相まって、クセになる味わい。
オーダーはドアを入ってすぐのカウンターで行います。ビールはその場ですぐ注いでくれます。
フードメニューはこちら。
サンドイッチだけでも14種あり、おつまみやスープ、サラダ、ビビンバといった丼メニューも。今回はランチでの利用でしたが、軽めのディナーにも良さそうです。
ちなみに、毎日15~17時はハッピーアワーがあり、ビール&サイダーが1ドルオフになるほか、フードもお得な価格で味わえます。
さて、今回オーダーしたのはこちらのメニューです。
Stuffed Avocado ハーフ4ドル、ホール8ドル(写真はホール)
トッピングが野菜、ツナ、コチュジャン漬けポーク、豆腐から1種選べます(写真はポーク)
詰め物をしたアボカドだけがサーブされるのかと思ったら、たっぷりのルッコラもついてきたので驚きました。これだけでメインディッシュになるほどのボリュームです。
アボカドの種をくりぬいた穴の部分に、たっぷりの漬けポークと酢漬け玉ねぎ、大根、刻みキュウリや人参が入っています。アボカドを殻から外し、ルッコラと豪快に混ぜていただきます。ヘルシーだけど満足感たっぷり。甘辛いコチュジャンがビールに合います!
Cubano 11ドル
サイドのチップス1ドル
映画「シェフ」を観てからというもの、メニューにクバーノ(キューバンサンドイッチ)があるとオーダーせずにはいられない性分になってしまいました(笑)。
たっぷりのハムとローストポーク、スイスチーズがぎゅっとホットサンドされていて、噛むたびに旨味のジュースがじゅわっと染み出してきます。薄切りのピクルスのシャキシャキ感、ピリ辛のタパティオソースが最後まで飽きさせない味わい。
Banh Mi & Clyde 9ドル
ベトナム風サンドイッチのバインミー。
スモークターキーと各種野菜のピクルス、パクチーをフレンチバゲットではさんだもの。お好みでホイシンマヨネーズをつけていただきます。
やわらかめのバゲットはモチッとしていて、かなりお腹いっぱいになります。地元野菜たっぷりなのもうれしいです。
ビールと料理でお腹がパンパンになっていたのですが、メニューに載っていた「チョコレートチップクッキー」をどうしても見逃すことができず……。
手のひらより大きいこのサイズで、1枚2ドル。
オーダーが入ってから1枚ずつ焼いてくれるので、ホカホカ、とろ~り。甘すぎない素朴な味わいです。
オリジナルロゴのTシャツ類も販売されています。タンクトップは腕のカットがかわいいですね。
ちなみに、このタップが並ぶ建物の2階がキッチンになっているのですが、出来上がったフード類は小さなエレベーターで1階に到着します。ちょうどこの写真の中央部分、雲と青空の小窓がエレベーターの出口です。面白いですよね。
店内の冷蔵ケースでは缶ビールも販売しています。全種類ではありませんが、定番や季節のビール数種が缶になっています。ラベルもユニークで楽しいものばかりなので、お土産にも良さそうです。
広いポートランドの中でも、数マイル圏内にフォーカスしたサスクワッチ・ブリューイング・カンパニー。地元密着のお店ではありますが、もちろん旅行者でも気兼ねなく利用できる大らかな雰囲気です。フォレストパークからすぐの場所にあるので、ハイキング帰りの一杯に、ぜひ!